Interview

山下農園さま インタビュー

物と飲食店の魅力を表現した
デザインが地域全体の魅力を底上げしました


山下農園 山下洋介

長崎市琴海町でミニトマトを中心に様々な農作物を栽培し、直売所やJA、市場、飲食店などに出荷。琴海産のトマトとアスパラガスを使った地元飲食店のオリジナルメニューを楽しめるイベント「琴海トマパラフェスタ」を企画・運営。
[Instagram]https://www.instagram.com/kinkai_yamashita/
[依頼デザイン]名刺・「琴海トマパラフェスタ」チラシなど


山下さんは琴海や滑石・横尾地区のローカルな飲食店との繋がりが深い印象です。

山下:
自分が農業を継いでから16年になりますけど、もともとは農協への野菜の卸がメインでした。それが長崎市周辺に直売所ができたことで、卸先が増えていきました。その後、2015年くらいから琴海地区に個人の飲食店が増え始めたんです。同級生がオープンしたお店もあって、人から人にどんどん横の繋がりが生まれていき、今でもよく個人的に足を運んでSNSにお店の情報をアップしています。中村さんに名刺のデザインを依頼したのは、お店が増え始めたのと同じくらいの時期でした。それまで名刺を配る機会もあまりなかったので、ちょうど良いタイミングでしたね。デザインに関しては、記載する基本的な情報と、ミニトマトをのせることだけリクエストしました。

中村:
最初はミニトマトを名刺に大きく配置したんですけど、どうもうまくいかなくて。色々と試す中で、そもそもミニトマトは小さいから、小さいままいっぱい置いたらどうかなと思いついたんです。そうすると、まるでトマトが行進しているみたいなかわいい印象になりました。また全体的なデザインとしても、横長の形に縦書きの文字、丸みを帯びた角、しっとりした紙質など、あえて名刺としての違和感を生み出して記憶に刷り込む工夫を盛り込みました。

山下:
実際この名刺を配るとほとんどの方が「かわいいね」とおっしゃって、話のタネになるんです。もう誰に渡しても好評で、自然と「どなたが作ったんですか」と聞かれるので、行く先々で中村さんのことを紹介していましたよ。

中村:
僕がお店に足を運ぶと、山下さんの名刺で既に知っていてくださることもあって、琴海や滑石・横尾地区で新しい繋がりが生まれるきっかけにもなりました。また他の方から、山下さんの名刺がきっかけで同じように名刺デザインの依頼がきたこともあります。ロゴではなく名刺だけのデザインでここまでPR効果があるのは、コスパのいい仕事というか(笑)狙った刷り込みが成功していると感じます。


そして2017年~2019年の毎年5月に行われたイベント「琴海トマパラフェスタ」のポスターも中村さんが制作されていますが、その経緯についても教えてください。

山下:
飲食店が増えて繋がりが生まれていく中で、せっかく地元の琴海には様々な野菜があるので、それを使ったコラボ企画みたいなものができないかと考えたんです。そこで浮かんだのが、トマトとアスパラが主役の「琴海トマパラフェスタ」です。飲食店の皆さんはメニュー開発等で忙しいので、自分が取りまとめ役となって、デザインは名刺を作っていただいた縁で中村さんにお願いしました。

中村:
お話をいただいたのはその年の1月くらい。基本的な情報や要素は山下さんからまとめていただいて、デザインはこちらに一任という形でした。デザインとしては、トマトの赤とアスパラの緑を基調に元気なイメージで、琴海地区の縦長な形をそのまま活かしたチラシになりました。中面の店舗紹介欄の制作では、実際に山下さんと一緒にお店に伺って、オリジナルメニューの撮影も僕がさせていただきました。山下さんがお店との細かな連絡をキッチリしてくださって、広告代理店みたいな存在というか(笑)プレスリリースまで自分で作って配布していましたよね。確か一年目は、地元テレビ局が4局とも紹介してくれたり、新聞や雑誌の取材もありました。

山下:
通常、農家は作ることに専念して、販売や情報発信は人に任せるケースが多いと思います。それもいいと思いますが、自分としては生産者や飲食店が自らイベントを企画したり告知を行うのは、地域のPRとしてかなり効果があると考えています。琴海産の野菜を使ったメニューでコラボすれば、その地域全体の知名度が上がり、産地をブランド化して付加価値をつけることができます。うちの農園だけ、特定の飲食店だけ知名度が上がっても効果は限定的ですし、人によって食の好き嫌いはありますから。広く琴海という地域で盛り上がることが大切なのかなと思います。
もちろん、イベントを企画している間ずっとそんなことを考えているわけではなく、単純に一人でするより、みんなでする方が楽しいというか(笑)お店が増えたことが、自分のモチベーションにも繋がっています。


2018年の第2回、2019年の第3回イベントチラシについても、同じような形で制作していったのでしょうか。

中村:
はい。2回目からは滑石・横尾地区の店舗も増えて、さらに規模が大きくなりました。「琴海トマパラフェスタ」はデザインだけではなく、山下さんと協力しながら各店舗での撮影などにも携わったので、思い入れも強くなりますよね。自分が住んでいる場所にも近いエリアですし、賑やかになるのは嬉しく思います。あとは飲食店の方々とやりとりする中で、色々なお話を聞かせていただきました。皆さん日々苦労しながら、お店だけではなく街のことも考えて、そこに職人としてのプライドもある。それでいて、同じエリアに似たようなお店がなく、こんなに多種多様なお店が揃うイベントも珍しいと思います。


山下:
この頃から〈山下農園〉のSNSでの情報発信も始めましたが、やっぱり中村さんとデザインやイベント運営でやりとりすることで、色々と参考になりましたね。自分の中ではこうしたいというぼんやりしたイメージがあっても、それを第三者と共有するためには、具体的に突き詰めて伝えないといけない。そういう意味で、いつも中村さんと話していると情報が整理されてスッキリするというか。漠然としたイメージを自然と明確化することができました。

「琴海トマパラフェスタ」を通して、地域にどのような変化が生まれましたか。

山下:
期間中に多くの方が足を運んでくださったことも効果の一つですが、終了後も飲食店の方とは何かしらの繋がりが続いています。例えばイチゴの季節に合わせて限定スイーツメニューを提供する際には、琴海産のイチゴを多くの店舗が使用してくださって。複数の飲食店が同じエリアというテーマでメディアに取り上げられる機会も増えましたし、琴海地区全体の魅力の底上げにも繋がっていると思います。

中村:
僕としても、ここまで地域全体とデザインを通して深く関わることは初めてだったので、デザイナーとしての引き出しを増やすことができました。今後も山下さんと一緒に、地域の魅力発信の力になれたらと思います。

取材:藤本編集局