杉谷本舗さま インタビュー
創業200余年の歴史を踏まえた
新しい時代に繋がるロゴとなりました
杉谷本舗 営業部部長 川﨑洋和
諫早市に店を構える老舗〈杉谷本舗〉。おこしやカステラといった和菓子は地元で古くから愛されており、伝統を踏襲しながら改良を重ねたおいしさが自慢。県外に出た長崎県民からの取り寄せも人気。オンラインショップでも販売中。
[HP]https://sugitanihonpo.co.jp
[依頼デザイン]ロゴ、商品パッケージなど
もともと〈杉谷本舗〉では、会社全体のブランディングの見直しが行われていたそうですね。
川﨑:
1811年に諫早市で創業し、「真心」という社訓とともに歴史を重ねてきました。明治維新や戦争、長崎大水害など時代ごとの困難を乗り越えてきましたが、新たなブランディングが必要ではないかという話が200周年を過ぎたあたりから出始めました。しかし全くの素人である私たちは、なにから手をつければいいのか分からず。そこで、伝統技術ディレクター・プランナーとして活躍する〈t.c.k.w〉の立川裕大さんに加わっていただきました。毎月ブランディングに関する会議を行い、会社の根っこの部分から見つめ直すこととなりました。そして企業の全体像や今後の方向性がまとまった段階で、立川さんのご紹介から新しいデザイン全般を中村さんにお願いする形になったんです。
一番最初にデザインをお願いしたのは、杉谷本舗のロゴでした。以前のロゴは先代の頃に作られたものでしたが、正直、ものすごく大事にはしてこなかったもので…意味合いも含めて、うまく社員で共有できていませんでした。それをブランディングに合わせて一新しようと考えたのです。ただ一新といっても、杉谷本舗には江戸時代から続く200年を超える歴史がありますし、「真心と共においしさと幸せをお届けする」という軸となる経営理念も既にありました。なので、そういった想いを込めてほしいという要望はありました。
中村:
毎月のブランディング会議には、僕も参加させていただきました。確か最初にお話をいただいてから、ロゴが決定するまでは3ヶ月くらい。最初の会議でもいくつか案を出させていただきましたが、自分の中でどうもしっくりこなくて。会議では、カステラの由来をヒントにオランダや南蛮船というモチーフのアイデアも出ました。しかし僕としては、200年以上も諫早という街に腰を据えている企業だからこそ、なにか諫早らしいアイデンティティを取り入れたいと思ったんです。
図書館にも足を運んで自分なりに考えましたが、アイデアの基礎となったのは立川さんからヒントとしていただいた「七宝紋様」でした。杉谷本舗がおこしで創業したルーツから、材料となるお米を七宝紋様の中に組み込んだら良いのではないかと考えました。さらに柔らかな円形には、社訓の「真心」がいつまでも続くよう願いを込めています。また4つのお米を囲う円には「従業員とその家族」「お客さま」「取引先」「地域」を丸く収める、という意味があります。
川﨑:
実際、この順番も重要なんです。以前はもう、とにかくお客さま第一という姿勢の会社でした。しかし今は、まず先に従業員とその家族を大切にしています。従業員がいなければ会社として成り立ちませんし、働いている一人ひとりが幸せでないと、お客さまを幸せにすることはできません。そうした経営の進むべき道、そして創業からの歴史を踏まえていただいたからこそ、素敵なロゴが完成したんだと思います。
新しいロゴになって、社内や社外での反応はいかがでしたか。
川﨑:
以前のロゴをご存知で、名刺を渡したときに気づく方が多いですね。「あ、シュッとしてる」とか褒めていただいたり(笑)。また初めてお会いする方にも、老舗というのがうまく伝わっているようです。時間があるときにはよくロゴの説明もしていて、会話のきっかけになっていますね。
社内的には、やはり長く見慣れたロゴを変えるということで、最初は少し慣れるまで時間がかかった部分もありました。でも接客係のエプロンにも大きく入れたり、一丸となってブランディングの意識を共有することで浸透していきました。今ではすっかり馴染んで、私もこの七宝紋様を見るとうちの商品だなと感じます。
中村:
ブランディングにおいては、ニューオープンよりリブランディングの方が、かなりのエネルギーを必要とします。今までの企業の歴史や理念を理解するのはもちろんですが、それをそのまま表現してはいけません。時代ごとの社会情勢やトレンドを取り入れつつ、企業が進むべき方向性や経営していく上での軸をぶらさず表現しなければならないと思っています。
杉谷本舗のロゴデザインに関しても、提案当初は好意的な意見ばかりではありませんでしたが、徐々にデザインの意図を理解していただくことができました。そしてロゴの後に、カステラのパッケージデザインも依頼していただきました。これにもロゴの七宝紋様を使うことは前提として、稲穂の金色を基調にしていくという方向性はブランディングをもとに決まっていきましたね。
川崎:
あと会議では「真心が感じられるか」がいつも焦点になりますよね。真心フィルターと言ったりして。社長も普段から「真心が入っているか、そこを自問自答してくれ」とおっしゃいますが、そこが共有されていれば、杉谷らしいスタイルというのはブレないんだと思います。
会社の方向性について、以前と比べて何か変化は感じますか。
川崎:
元々歴史があるので、ブランディングといっても大きく改革したわけではありませんが、一つのチームとして目指す方向はより共有できていると思います。例えば以前は商品撮影の際に、デザインと一致させるために中村さんにも毎回ご同行いただいていました。しかし今では、私や他の社員が立ち会いながらカメラマンの方とともに進めています。中村さんならこうするだろう、という考えのベースを共有しているので、それを崩さないように心がけています。
中村:
一緒に毎月会議を重ねているからこそ、会社としての見せ方みたいなものが定まってきたんだと思います。やっぱり続けていくことが大事ですよね。
川崎:
ブランディングに“ing”があるように、時代に合わせてやり続けていかないといけないのかなと。そして実際に取り組んでみて、ブランディングは時間のかかるものだと感じます。これまでの積み重ねも決して悪い部分ばかりではないので、取捨選択が必要です。味や素材、これはよりおいしくなるのであれば変えていくことが必要です。しかし、いつの時代も大切な真心は変えてはいけません。先人から受け継いだバトンを繋いでいけるよう、そして地域の方々の期待に応えられるよう、これからも頑張ります。デザインに関しても、また引き続きよろしくお願いします。
取材:藤本編集局